夢で逢いましょう





夢であなたを抱きしめ
夢であなたに口づける



七条がいる。
薄闇をバックに覆い被さるようにして自分をのぞき込んでいる。
枕元に置かれた手。腕を辿って顔に視線を向けて啓太は瞬きをした。
七条さんだ。
ぼんやりと見詰めていると、七条の目が柔らかく細められる。
ああ、夢だ。
啓太は思った。
どうやら自分は夢の中で目を覚ましたらしい。
学生寮の自分の部屋、自分のベッドにいつも通り仰向けに横たわっている。
普段と全く変わらない状況だった。
違うのは七条がいることで。
それはたった一つの違い。けれども大きな違いだった。
何だか地味だよな。オレの想像力。苦笑を浮かべながら啓太は思う。
もっと派手な展開とかでもいいのに。
「何を笑っているんですか?」
楽しそうに夢の七条が問いかけてくる。声の調子、言い方までそっくりだ。
スゴイかも。
「オレって地味だなって思っただけです」
「地味?」
「だって夢だったらもっとスペクタクルな…。海賊とか、そんなのでもいいのにって、思って」
「海賊、ですか。伊藤くんの海賊姿はさぞ可愛いでしょうね」
オレの海賊姿なんて面白くも何ともないですよ。
そう思ったが、啓太は口には出さなかった。
それより自分の想像力というか記憶力というか、夢を形作る能力に感動していたからだった。
俺の夢能力偉いぞ。
本物みたいだ。
本物の七条さんみたいな口調で本物の七条さんが言いそうな事を言っている。
なんていい夢なんだろう。
スペクタクルでなくてもいい。
自分の部屋が舞台の地味な夢でいい。
七条さんに会えるのなら。
「伊藤くん?」
問いかける様な瞳が間近に自分を見ている。
啓太は誘われるままに腕を伸ばした。
首に腕をまわして引き寄せるようにしがみつく。
のしかかる体の確かな質感と暖かさ、七条の匂いに安堵して。
不意にどの感覚どの感触もリアルに過ぎると啓太は気づく。
抱きしめられる腕の力も首筋に感じる唇の感触も。
「七条さん」
「なんですか?伊藤くん」
「…これは。夢、…じゃないですね…」
夢なのかと問いかけようとして啓太は自分の過ちを認めた。
夢じゃない。夢なんかじゃない。
パジャマの裾から入り込んだ冷たい指に乳首の縁をなぞられて、啓太はひくりと震えた。
もう一方の手は背骨にそって体を下っている。その感触は不埒な行為を思い出させる。
どうやって鍵のかかった部屋に入って来れたんだろう。甘い感覚に身をよじり息を乱しながら啓太は思う。
でも七条さんだから鍵くらいなんとでもなるんだろうし。
「夢かもしれませんよ」
耳に吐息と共に吹き込まれる言葉。それは面白がっているようでどこか真摯な響きを持って聞こえた。
「僕に都合のいい夢かもしれない。
欲望のまま君を独占し自分の好きにできる夢。朝には消えてしまう」
だったら君はどうしますか?
啓太は七条の首に廻していた腕を緩めた。わずかに顔をはなして闇の中で暗い色に沈んだ瞳を見詰める。
薄い唇が寂しそうで啓太は自分の唇をそっと触れさせた。それは目覚めをさそう口づけに似ていて。けれどやはりどこか違っていて。
乾いた唇の感触に啓太の動悸が跳ね上がった。
「夢の自分じゃなくて本物の自分にして欲しいです。
もしこれがオレにとって都合のいい夢だったとしても。
夢は嫌です。本物の七条さんがいい」
頬の熱さを意識しながら啓太は七条の唇の上で言葉をつづる。
自分こそが七条を独占したいのだというひっそりとした願いは、口にすることはなかったが。その思いもこめて。
「だったら朝になっても消えたりしないでしょう?」
「消えませんよ」
伊藤くんさえそれを望むなら。
あわただしくそれだけ言うと七条は不意に深く口づけた。
それは七条らしくないどこか勢い込んだ荒々しいもので。与えられる感覚に溺れそうになりながら啓太は必死に頷いた。
ぎゅうと目をつぶった啓太には見えなかったが、まぶたの向こうで七条が嬉しそうに笑った気配がした。







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