イエローダイアモンド   by まめたろう



学生会室。

中嶋英明はいつもの椅子に腰をかけ、いつものごとくモニターに向かっている。
手元には片づかない仕事が山のようにある。
てきぱきと能率的に作業をこなしている。

時々、窓の外から人の声がする。
中嶋はそれに耳を傾けることもなく、机に向かっている。
誰かの泣き声が、聞こえる気がする。
けれども自分には関係のないことだ。
そう、思う。

時々、窓の外が夕暮れになる。
ちらりと目を向ける。
そろそろ帰るころか。
迎えに来たら、帰ろう。
ぼんやりそう思う。

「中嶋さん」
ドアの外で声がする。自分を呼んでいるらしい。
中嶋は手も止めずに、意識だけをそちらに向ける。
伊藤啓太、らしい。
聞き覚えのある声より心持ち低い、落ち着いた声。
「もう行きましょう」
中嶋は返事もせずにページをめくる。
伊藤啓太の気配はしばらく扉の前に佇んでいたが、やがて消える。

窓の外が騒がしい。
「結婚おめでとう」と声がする。
手元から篠宮の手紙がでてくる。几帳面な文字で
「時間の経つのは早いものだな。  の七回忌はどうする」
と書いてある。
中嶋は目を扉に向ける。
動かない扉をしばらく見つめて、再び仕事関係の書類だけの机に目を戻す。
いつものようにかたづけることは山のようにある。
中嶋は作業を始める。

誰もこない。

中嶋は手を止める。
周りを見渡す。
窓の外は暗くなっている。

どこからか声がする。
「これは特徴的な症例です。
一見して不自然なことなど何もありません。
室内ということも特には問題はないでしょう。
整然とおかれた本棚、机。
もしかしたらこの患者にとってこの部屋こそが意味のあるものなのかもしれません。
憶測にすぎませんが。
それよりも。この柵です。部屋の前。外界と箱庭を完璧に遮断する柵。
心に張り巡らされた柵と言っていいでしょう。
一見正常に見えてもこの患者は…」
くだらない。
そんな風に思う。






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