月がとっても青いから
 
 夕方です。
 世界は夕焼けに染まる頃。
 七条さんは図書館帰り。
 追いついてくる足音に気付きました。
「七条さーん!!」
 けれど近寄るまで振り返ったりしません。
 足音は啓太のものだとしっていたので。
 啓太が自分に追いついて自分を見上げるその時を七条は待っていたのでした。
 迷いのない目に見つめられて。
 自分が求められていると実感できる一瞬。
 セックスの充足感にも似ています。
 身体をつなげて。
 啓太の身体、感覚の全てを手の内にしていると感じられるあの一瞬に。
 快感に我をわすれてしがみつく啓太の手の強さに感じる満足感によく似たもの。
 全身で求められている、という思い。
 それを追いついた啓太が自分を見つめる時に七条は感じるのです。

「七条さん!!ってば!!」
 ゆったりと歩く七条に追いついて。啓太は七条を見上げました。
 ようやくおいついた。
 七条は今気づいたという表情で啓太を見つめ返しています。
 色の薄い紫の目が啓太を見ています。
 きれいだ。と啓太は思いました。
 世の中で一番きれいなのは紫色の目だ。
 好きだなあ。
 七条に見つめられるのは好きでした。
 西園寺のことしか頭になさそうな七条が、その時だけは自分を見ているとおもえるからです。
 でもそんなことは言いません。
「七条さん。歩くの速いですよ」
「でも伊藤くんは追いついてくれたでしょう?」
「そりゃあ。当たり前です。オレ、七条さんを待ってたんですから」
「…まって?どうしたんですか?」
「一緒に帰りたいなー。…なんて思って…あ!!だめなら」

「駄目なわけありませんよ」
 間髪入れずに遮って。七条は自分に驚いていました。
 啓太が離れていくと思った時のこの慌てようはなんなんでしょう。
 七条は考えます。
 自分は自分で思っている以上に心を囚われているらしい。と。
 啓太に。
 啓太の瞳に。
 離れたくない。
 離れるなんて考えたくもない、らしいのです。
「夕陽がとってもきれいですね。海でも廻って帰りましょうか」
「いいですね」
七条は嬉しそうに笑う啓太の姿にたえきれなくなりました。
 こっそりキスを奪うと、その唇に囁くようにいいました。

「伊藤くん。知っていますか?『夕陽がきれい』というのは『I love you』という意味だって」
 せめて夕陽が沈むまで、君といたいんです。
 七条がそういうと、啓太は夕陽に対抗出来るくらい真っ赤になりました。
 真っ赤になって目をぐるぐるさせた後、恥ずかしそうに。
 けれどはっきりと啓太は言いました。
「月だってきれいですよ。だから七条さん」

 一緒に見ましょう。ずっと。