18歳の誕生日に。   by まめたろう





11月19日。

冬至にはもう少し早いこの時期。
5時を前にして日はすでに沈んでいる。
夕焼けの名残をとどめつつも急激に暗くなる空は重い藍色をしている。

見るとはなしに視線を向けながら、中嶋は同じように空を見上げた夕暮れを思いだした。
あの暑い日からもう3ヶ月たっている。
ついこの前のことの様に思っていても時間は気づかぬ内に流れている。
緩やかに。あっという間に。
そして二度とは戻ってこない。
考えはいつも奇妙な感傷に行き着いてしまう。
中嶋は、そんな自分を口の端で笑った。

「何を笑っているんだ、18歳」
背中からのんびりと声がかけられて中嶋は首を巡らした。
いつもの笑顔で丹羽が立っていた。
肌を刺す空気の冷たさもこの男には関係ないようだ。
いつものごとくボタンをかけられることのない上着が北風にはためいている
ゆるみそうになる頬を引き締めて、中嶋はわざととがらせた口調で言い返した。
「なんだその18歳っていうのは」
「誕生日おめでとうってことだ。
ケーキ買ってやろうか?ろうそくも18本つけてな。
あ!皆呼ぶか!呼んで…」
「やめろ馬鹿らしい」
中嶋は次第に大きくなる話を遮った。
このまま丹羽の話をほおっておけば確実に今日の夜は宴会だ。
しかも場所は自分の部屋にちがいない。
自分の部屋で大騒ぎ。
しかも肴は自分の嬉しくもない誕生日だ。
そんなこと断じて願い下げだ。
「大体、18にもなって誕生日のどこが嬉しい。
もう子供でもあるまいし」
「一人前の成人男子として結婚ができるって、どうだ?」
「よりによってお前が言うな。浮いた話の一つもないくせに」
「あったらどうする」
「どうするも何も。おまえを扱える物好きがいたら顔が見てみたい位だ」
鼻で笑いながら言い捨てる。
俺の他にそんなヤツがいるわけがない。
けれど丹羽の言い方が、どこか具体的で。
ちりりとうなじを走る何かがある。
「見たいか?
なんだかんだいいながらにオレにベタ惚れの美人だ」
その目にある面白そうな光が憎らしくて中嶋はわざと丹羽から視線をそらした。

風にもう残り少ない木の葉が揺れている。
あれもいつか落ちる。
枯れた乾いたひとかけらになって地面に落ちるだろう。

「人の美醜なんて主観によるからな」
世間の評価とはまたべつだろうしな。
中嶋はなるべく興味のない振りで答えた。
つまらなそうに。
いや、実際興味のないことだ。面白くもない事柄だ。
丹羽がどんな女をつかもうと選ぼうと自分には関係ない。
関係ないことの筈だ。

「や、美人だとおもうぞ。世間的に見ても」
「何をムキになってるんだ。子供か、お前は。馬鹿馬鹿しい。
大体いきなり結婚だの浮いた話だの、何を言い出すかと思えばくだらんことばかり」
誰の誕生日だと思っているんだ。
そういいたくなる口を中嶋はぐっと噛みしめた。
誕生日などなんの意味もない。
そう思っていても丹羽の無邪気さが腹立たしい。
中嶋は自らを落ち着かせるようにメガネのブリッジを押し上げる。
吸い込んだ息を深くはき出すと歩き出した。

その背中を相変わらずのんびりとした声が追いかけて来る。
「182センチあるがな」
大女だ。
まあ丹羽なら並んでも見劣りはしないだろう。
「眼鏡をかけていてな」
中嶋は足を止める。
その肩に当たり前のように丹羽の腕が廻される。
動きを止めた中嶋を丹羽がのぞき込んでくる。
その顔はいたずらが成功した子供のように見えた。
きっと今、自分は間が抜けた顔をしているのだろう。
そう思いながらも中嶋は表情を取り繕う余裕もなかった。
視線をつかまえて丹羽が子供をあやすように笑いかける。
そうして素早くキスを奪い取ると満足そうに続けた。
「きっと性格は最悪だ」

「お前にはもったいない相手だな」
自分らしくもなく耳が熱い。
負けずに言い返しながらも、口はもうキスをねだっている。
すぐに与えられる唇にうっとりと目を閉じて、中嶋は丹羽の腕の重みを味わっていた。






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