和希のヤツーーーー!!!!
心の中でいくら悪態をついても始まらない。
誰が悪いと言えば、一番悪いのはやはり自分なのだ。
大事なことを間違えた自分が一番悪い。
啓太は唇を噛む。
頭の中では数日前の会話が反芻される。
昼休み、教室で。 
「こんどの月曜。七条さんの誕生日らしいんだよな」
和希は唐突に言った。
なんの話をしていた時だったろう。確か、日曜の予定、だったか。
今度の日曜、どうする?和希が訊いてきて。会計室に遊びに行く。その時啓太は確かそう答えたのではなかったか?
え?
和希の言葉に啓太は驚いた。知らなかった。そう、秋生まれらしいという話までは知っていたけれど。啓太には恥ずかしくて聞く暇がなかったのだ。
あわてて顔を見返す啓太に和希はにっこり笑って。
「啓太。結構仲いいだろ。
プレゼント買いにいかないのか?ついて行ってやろうか」
そう。言った。
だからはじめは和希と出かける筈だった。こーゆーことはこっそりおこなう方がよい、と啓太が秘密任務を思い立たなければ
何も知らぬまま今日一日を和希と過ごすはずだった。…のだ。

「七条さん…」
ひどく後悔した顔で啓太は七条を見つめた。
「オレ…なんにもプレゼント用意してないんです…。せっかくの七条さんのお誕生日なのに…」
肩を落として悲しそうに啓太が言う。
「そんなものいりませんよ」
「どうしてですかっ!?七条さんの生まれた日ですよっ!!
オレ嬉しいです!お祝いしたいですっ!」
必死に食い下がる啓太に七条は胸の奥が苦しくなる様な感覚を覚えた。
まっすぐに自分を見つめる視線。
自分に向かう想い。
自分を求める、まだ幼い、けれど純粋な感情。
それはまるで上質な宝石の様だ。
手に入れて、はなしたくなくなる。誰にも渡したくない。
自分だけのものにして誰の目にもふれて欲しくない。
そう思うのが自分だけではないのが腹立たしい。誕生日という格好のイベントを利用される所だった。
あの狡猾なオトコに。
まあ、先んじたからよかったものの。
「ありがとう、啓太くん」
にっこり笑って七条は礼を言った。
啓太は泣き出しそうな顔で七条を見つめている。瞬きひとつせず、必死に。
ああもう、どうしてくれよう。七条は思う。こんなに無防備ないきものがいていいんだろうか。
「実は、今日一日君と過ごしたいと思って部屋に行ったんですよ。
そしたら君が出かけるのが見えて」
七条はゆっくりと腕を広げた。ためらいがちに身を寄せる啓太をその腕に閉じこめて囁く。
「今日は人気者の君を僕に独占させてください。それが望みです」
「人気者じゃないし、いつも独占されてます」
自分を知らない恋人がどこか悔しそうに言うのを七条は楽しそうに聞いていた。
七条が影でどんな努力をしているか、啓太は知らない。知る必要もないことだったが。
「首にリボンを巻いて好きにしてって言ってくれてもいいんですよ」
「いつも好きにしてるじゃないですかっ!」
真っ赤になって、照れ隠しにどなる啓太を七条はくすくす笑って見つめた。
本当に、啓太といる時には笑い方を考える必要がない。
笑顔は作るものではなく心からこぼれるものなのだ。
それはまるで大発見の様に七条には思えた。

「じゃあ行きましょうか」
「はい」
手をつないで二人は歩き出した。
幸せな一日はまだ始まったばかりだった。






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