4月1日のお話







「俺、な。お前のことが。
好きみたい」


春休み。
進級旅行とかなんとかよく分からない事を言いながらいきなりやってきた成瀬由紀彦に、
滝俊介は案内係に指名されて遊園地まで連れてこられてしまいました。
地元とはいえ初めて来るテーマパーク。むしろ滝の方が成瀬より楽しんだ位です。
肝心の成瀬はまるで滝の後をついてくるだけの様に見えて。
自分が来たがったくせにもったいない。そう、滝は言いました。
「僕は十分楽しんでいるから大丈夫」
いつの間にか買ったらしいジェラートを差し出しながら華やかな笑顔で成瀬が答えます。
それに俊介も楽しそうだしね。
「楽しいにきまってるやろ!」
成瀬の手からジェラートを受け取ると、はじかれたように滝は次のアトラクションに向けて走り出しました。
「前見て!危ないよ俊介!」
後ろから成瀬の声が追いかけてきます。
子供扱いするなや。そう滝は思います。
何しろ自分は自転車トライアル競技で世界3位の滝俊介です。
そんな、転んだりなんてへまよくしません。
ジェラートを受け取る時成瀬の指にわずかに触ってしまったこと。
指に残った感触。
それらが滝を落ち着かなくさせているのですが。
何故指先がくすぐったいのか、滝は気づかない振りをしました。

シングルは狭くて嫌なんだ。
でもツインに一人きりというのも味気ないじゃないか。とか滝にはやっぱりよく分からない理由で。
その夜は滝までホテルにお泊まりということになりました。
こうこうせいの癖に金持ちやな、こいつ。
と羨ましさ半分呆れ半分の表情を浮かべて見せてはいましたが。
内心楽しく、すごく楽しく一緒にお泊まりです。
今日はなんと言っても4月1日。滝の誕生日で。
滝は思いがけない誕生日にほくそ笑んでしまいます。
滝の誕生日ときたら4月の頭のことで。学校それも新学期もまだ始まっていない時期。
今まで同級生から誕生日を気にかけて貰ったことなどなきに等しい滝です。
いつもの年も家族でそれなりに楽しく過ごしてはいましたが、思いがけなく遊園地。
思いがけなくホテルで豪華な食事。
それも成瀬と一緒です。
滝がこっそりひっそりいい気分になっても無理はないでしょう。

ペリエの入ったグラスを傾けて。
「誕生日おめでとう。俊介」
と成瀬が言った時に、滝は驚きのあまり動きが止まってしまいました。
口に肉をくわえたまま相手を凝視してしまいます。
さすが成瀬。今日が滝の誕生日と言うことを覚えていたらしいのです。
さらに優雅な手つきでジャケットの内ポケットから綺麗にラッピングされた包みを出されて二度びっくりです。
「いらないなら僕が貰っちゃうけど?」
「そんなことあるか!!」
悪戯そうに笑う成瀬に本気で焦りながらプレゼントを受け取り。
「ありがとうな」
うつむいて滝は少し震える声で礼を言いました。
なんや、熱いなあ。ホテル暖房入れすぎちゃうん?
頬の熱さをそんな風に理由つけます。
鼻の奥がつんとするのは。花粉のせいや。
目がなんやしばしばする。視界もちょいぼやけとる。
臨時の花粉症にもなります。
「どうしたの。いっぱい食べなよ」
テーブルの向こうから優しい声がしましたが滝は顔をあげることができませんでした。
なんだかもったいない。
今日の全てが自分にはもったいないことばかり。
でも誰にも代わってやらん。
ふわふわな包みを胸にギュッと抱きしめながら、滝はうんと頷きました。
そんな自分を成瀬がそれこそ包みこむような目をして見ていたことに滝は気づきませんでした。








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